第1回 木漏れ日 | 稲葉真弓 | コラム |

インフォメーション

市川直明著: 成人がん患者・家族とのエンドオブライフコミュニケーション
5月19日(土)発売

熊谷孝三著: 放射線被ばくを知っていますか
4月18日(水)発売

今井裕監修: 人体の正常構造と画像 胸部
4月18日(水)発売

横田順彌著: 近代日本奇想小説史 入門篇
3月16日(金)発売

上杉正人著: Javaによる医療言語処理入門
2月24日(金)発売

高橋ゆかり著: 出題傾向がみえる 成人看護学
12月25日(日)発売

高橋ゆかり著: 出題傾向が見える 精神看護学
11月25日(金)発売

船水憲一著: ここから始まる画像ビューアーの作り方by DelphiXE
9月17日(土)発売

講師:上杉正人先生 【DVD】フィルムレスマスターセミナーDVD7 障害対応・対策
9月26日(月)発売

講師:伊藤暢浩先生 【DVD】フィルムレスマスターセミナーDVD6 ガイドライン
9月26日(月)発売

講師:中島隆先生 【DVD】フィルムレスマスターセミナーDVD5 標準規格
9月26日(月)発売

福島原発事故による放射線被ばくについて 諸澄邦彦
福島原発事故による放射線被ばくについて

商品カテゴリー

ご利用ガイド

連載コラム

米山公啓の『医学 そっと もっと ゆっくり』

世界保健事情―地球規模で考えたいわたしたちの健康

横田順彌 著『近代日本奇想小説史 明治篇』出版記念トーク・イベント  騙し騙され!? 古本人生談義

稲葉真弓 ブログ リリヤン日和

菅原千代志 いのち Wonderland

ブックマーク


コラム

第1回 木漏れ日

 白い指が糸にふれると、銀色の編み針は素早く、魔法のように動き始めた。
 ベッドの上に置かれた薄い緑のレース糸。繰り出される糸の動きはリズミカルで、編み棒の先からたちまち複雑な模様が生まれていく。
 私は母の指先と編み目をうっとりとみつめている。少しずつ形になっていくものがなんなのか、当てようとする。お願いしてあったベレー帽だろうか、それともコサージュ?
 ベッドに身を起こし、編み棒を動かす母の横顔は美しかった。頬のあたりに垂れている髪が、指の動きとともにかすかに震えている。
 時々母は、顔を上げてにこっと笑う。そして、また熱心に編み棒のほうへとうつむく。
「ジュース、もう飲んだの?」
 ベッドのかたわらのテーブルには空のコップ。窓から射し込む午後の光を受けて、オレンジ色の滴が光っていた。
「学校はどう?」
「うん、べつに。毎日同じ」
「そう、金魚は元気?」
 ほんとうは金魚のことは聞かれたくなかった。去年の夏、商店街の夜店で買ってもらった三匹の金魚。そのうちの二匹は、母が入院したあと死んでしまった。水を換えるのをなまけたからだ。一匹だけ残った金魚は、三匹のうちで一番小さかった。小さいくせに尾が長いから、ときどきバランスを崩す。
「元気だよ。水槽のなかで今朝もでんぐり返ししていたよ」
 母はおかしそうに笑う。そして短く、「よかった。大事にしなさいね」と言う。
 ……あれから二年。
 いま私の頭に乗っているのは、薄い緑色のベレー帽。木漏れ日が編み目を通して私の頭にふり注ぐ。私は風に飛ばされないように、母の最後のプレゼントをしっかりと手で押さえる。ベレー帽には、二匹の真っ赤な金魚が編み込んである。だからこの帽子をかぶっていると、いつも空に泳ぎ出す赤い魚の姿が見えてくる。元気で晴れやかな金魚たち。
「はやく、おいで」
 父の声がして私は駆け出す。手をつなぐ。大きな手はとても暖かい。
 やがて、みえてくる。木漏れ日に囲まれた家。父とふたりで暮らす新しい家が。


プロフィール

≪バックナンバー≫

4.リリヤン日和(2011/2/1)
3.百合の花(2010/9/30)
2.馬がくる夜(2010/8/31)
1.木漏れ日(2010/7/26)
0.コラム連載開始のお知らせ(2010/7/22)



関連商品

藍の満干
藍の満干

このページのTOPへ
Copyright©2012 Pilar Press Corporation All rights reserved.