第1回 発展途上国の農業開発と保健医療 アフリカ農業の現状 | 世界保健事情―地球規模で考えたいわたしたちの健康 | 宍戸竜司 | コラム |

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第1回 発展途上国の農業開発と保健医療 アフリカ農業の現状

 2010年南アフリカ共和国ではサッカーのワールドカップが開催された。アフリカ大陸で行われた歴史的にも最大のイベントである。巨大スタジアムの青々とした芝生の上で走り回るサムライブルーの意外な(?)大活躍に一喜一憂したが、同時にテレビでは治安への不安や貧困問題も報道されていた。“途上国”とのイメージがあるアフリカで大イベントが開催されるというその一方で、安全を脅かされながら日々やっと生活している人々もいる。このように豊かさの陰には極端な貧困もあるのが多くの途上国の特徴でもある。

 さて、この南アフリカという国自体も、実はアフリカの中では極めて特別な国である。それは同国一国だけで、サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ諸国)全体の、実に40%のGDP(国内総生産)を稼ぎ出しているからである。しかし、その他のサブサハラ・アフリカ諸国はどうであろうか。南アフリカのようにダイヤモンドや金を産出することのできない多くの国では、農業がその国の経済活動に大きな比重を占めており、また人口の多くも農業に携わっている。サブサハラ・アフリカ諸国は特に他の途上国に比べても多くの人々が農業に従事しているにもかかわらず、問題なのは主食となる穀物生産が世界平均の4割程度しか産出できていない。これは、簡単に説明すると農民1人当たりの生産量が極めて低いということである。

 さらに人口問題が追い打ちをかけている。途上国では多産であることが多いが、近代的な保健医療サービスは乳幼児の死亡率を劇的に下げ、その結果平均寿命も伸びることとなった。このような国で出生数が同じ場合はとどのつまり人口が増大するが、食糧の生産量が低いままでそれを消費する人々が増え続ければどうなるかは火を見るより明らかである。それには「少なく産んで確実に育てる」ことが重要であるが、早急に対応する場合は食糧を他国から輸入することが現実的である。ではそのお金はどこから調達すれば良いのか?
 先述のように、ほとんどのアフリカでは農業が主な生活の手段であり産業でもある。ということは輸入するための外貨を稼ぐには輸出できる農産物をたくさん作ればいい、と安易に結論を出さないでほしい。ケニアやタンザニア、エチオピアなどはコーヒーや紅茶の生産で有名である。その他にアフリカではコットン(綿)やピーナッツ、カカオの生産も輸出農産物として重要な位置を占めている。また最近はケニアの切りバラという意外な農産物の生産が増大してきており、オランダを経由し日本へも輸出されている。
 しかし、例えばコーヒーは、ブラジルやインドネシアなど他国でも生産している農産物であり、また農産物であるがために作柄に影響し、また投機の対象ともなることから国際価格が不安定でもある。一日コーヒーを一杯飲む人が10杯飲むようになってくれれば大変よろしいが、このような嗜好品の類は消費量もそれほど変わらないために需要を格段に増大することも難しい。さらにコーヒーを生産する農地を拡大することは、その分食糧となるトウモロコシや芋類を生産するための農地が減ることにもなる。しかも輸出を目的としている農産物の多くは日々の食糧の代わりにはならないことにも注意する必要もある。そして、そもそも外貨では食糧だけではなく、燃料、薬品や化学製品、自動車や機械類などを輸入するためにも必要であることも忘れてはならない。事実、サブサハラ・アフリカでは南アフリカ共和国を除きすべての国が穀物を輸入しているが、そのためにコーヒーなど農産物や天然資源の輸出で得られた貴重な外貨の半分以上が穀物の輸入に使われているのである。このようにアフリカ農業の問題は、今日のグローバル化の中でアフリカだけで、また農業分野だけで解決することは不可能なのである。


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≪参考文献、第1回から第3回まで>>
高橋基樹 [2010] 「アフリカ貧困・開発論」、舩田クラーセンさやか編『アフリカ学入門 ポップカルチャーから政治経済まで』 p95-120
竹田美文ら編 [1996]『新熱帯感染症学』 南山堂 p3-7, p15-21
平野克己 [2002] 『図説アフリカ経済』日本評論社 p2-57

文責/宍戸 竜司



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