第3回 発展途上国の農業開発と保健医療 発展の過程での保健医療問題 | 世界保健事情―地球規模で考えたいわたしたちの健康 | 宍戸竜司 | コラム |

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第3回 発展途上国の農業開発と保健医療 発展の過程での保健医療問題

 途上国の農業開発は、農業の分野だけでのみ考えることはできない。例えば農村開発を含む社会開発と発電などを目的にしたダム建設により、住血吸虫の中間宿主となる貝の増殖が促され、その結果生活水としても利用する地域住民に対して住血吸虫の拡大を招くことになった事例がガーナやエジプトから報告されている。またフィリピンの農地整備と稲作改良事業でも、同様に住血吸虫が拡大し住民が水田を放棄することになった例がある。農産物生産増産のために農業用地として開墾し拡大された結果、マラリアの流行地が新たに作り出されることになった報告もある。農村の開発はこのような保健医療への影響の例だけではなく、さらに教育、政治と制度、経済、環境などとも複雑に関係し合っている。保健医療の問題も途上国ではプライマリ・ヘルス・ケアや感染症対策だけではなく、他の分野との関わりも考慮する必要があることは農業開発と同様である。

 途上国において、経済的な発展や開発の効果が一番早く現れるのは、実は農村ではなく都市部である。そしてますます発展していく都市部では、人口の増大に行政サービスやインフラの整備が追いついていないことが大きな問題となっている。多くの途上国の都市では上水道の供給が足らないことを原因とする衛生への影響が知られている。
 上水道の需要が増大し供給が追いつかない場合、特に人々が水道を使う日中には水の供給が間に合わず水道管内の水圧が下がりすぎ、その結果水が蛇口から出なくなる。反対に夜間は水需要が減ることにより逆に水圧が上がり、老朽化した水道管の割れ目や継ぎ目から水が漏れることがよくある。この水道管から漏れだした水は地中から地表にあふれ出し水溜まりになったり、ゴミや汚物に接触することにより汚染する。そして水需要が増える日中は水圧が下がり、その結果水道管から漏れ汚染された水が今度は割れ目から水道管内に吸い込まれる事になる。そしてこの水はそのまま各家庭や施設へ供給されることになるのである。途上国の都市部では上水道が整備されているのもかかわらずこのように不十分な水道インフラを原因とする下痢症などの腸管感染症の拡大が知られている。

 汚染された水道水は、各家庭で煮沸するか塩素処理し利用すれば、感染症は防ぐことができる。しかしこのような対処的な手段は感染症を防ぐという一時的な効果をあげることは期待できるが、そもそもの原因である都市部での人口増大の問題を解決することにはなっていない。人口に対応するために老朽化した水道管を取り替えたり増設するには巨額の費用がかかる。しかしその資金の元となる水道料を住民はしばしば滞納したり、盗水することにより支払いなしに生活用水を確保していることも珍しいことではない。
 さらに根本的な原因である過剰となればなるほど、人口が都市部へ流れてくることに対しどう対処するのかが非常に重要である。都市への人口の流入は行政サービスやインフラの不足だけではなく、医療や子どもへの教育サービスの機会が失われ、電気やガスの代わりに炭や薪などを生活燃料とするため森林がますます伐採され、さらにゴミや汚物が集積するなど、このような生活環境の悪化がさらに犯罪を呼び込むなどの問題にもつながることになる。これらは都市化問題といわれ、スラムの問題もその一つである。

 これらの例のように途上国では医療の問題は決して医療だけの問題ではなく、開発へ影響を与えたり逆に開発が医療へ影響を与える関係にもある。そして目の前の問題に対処するだけではなく、医療行政のシステムや政府そのものの能力がこれらの問題に適切に対応できる状態にあるのかが非常に重要になる。これが開発にあたり考慮すべき途上国側の最大のカギの一つである。


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≪参考文献、第1回から第3回まで>>
高橋基樹 [2010] 「アフリカ貧困・開発論」、舩田クラーセンさやか編『アフリカ学入門 ポップカルチャーから政治経済まで』 p95-120
竹田美文ら編 [1996]『新熱帯感染症学』 南山堂 p3-7, p15-21
平野克己 [2002] 『図説アフリカ経済』日本評論社 p2-57

文責/宍戸 竜司



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